ハッとして、仲子若夫人とお互の眼を見詰め合ひ私はうなづきました。
通用門を出ますと、ドッと新聞記者たちにとりまかれました。口々に容態を聞かれましたが「おちついてをられます」とくり返しながら、人々を分けて、向側の秘書官邸の玄関に飛び込みました。
女中二人をせきたてて、寝室からつれ出した康彦チャンはまだ眠ったまま女中の背中に、私は道子サンの手をしっかりと握って、通用門を入ろうとしますと、記者たちが「お孫さんをつれてゆくのじゃ相当に悪いですネ、危篤なんでしょう」とつめよってききました。
「ちがいます。お孫さんだけ放ってをくのは淋しいからです」と云いながら、とりまいて放してくれないのを、かき分けるようにして、玄関に入り、病室の次の間におつれしました。
夜更けて冷んやりしてきましたので、道子サンの羽織と足袋をとりよせました。
「ね、おぢいさまは大丈夫なの」。

膝と膝をつき合わせて、私の両手をしっかりと握って、道子サンは円らな眼を据えて聞かれます。

御後へ紡いでまいります・・・

※ 原文のままの文字使いを使用しています。