よく役者が舞台で汗はかゝないが、楽屋へ入つた時瀧のやうに出るといふ話をきゝますが、緊張してやればやはり其通りでせう。

臺子の前でお點前をしてゐる時 は心頭滅却すれば何とかやらで、今でもこの時の修業が身について、きちんとした心構をすれば汗をながすやうなことはありません。
私の先生は橋本といふ老婦人でしたが、大変きびしく、何か他に心が行ってゐて、手前が乱れるとすぐ見破られました。又よく、轉がる石に苔はつかないと訓されました。
順序に少しの狂ひはなくても、心が他へ行ってゐると、あなたの手前は乱れてゐると見破られたー。
こんなことは茶道だけではなく、すべて教へる人の人格をとほしてやらなくては駄目だと思ひます。

寒い時には寒さを、暑い時には暑さを感じない、つまり”すき”をあたへないといふ気概がいるとも教へられたことが、この寫眞を見る度に思ひ出せます。

 御後へ紡いでまいります・・・

※  原文のままの文字使いを使用しています。