〜西瓜〜

こうやつて西瓜をたべるのがうまいかつてきかれると、結局いい西瓜を丸ごと思つきり冷やしたのをカブリつくのが一番だと云ひたいのです。
いや、切つちやいけない、割つてたべるのがいいなんんてよく云ひますが、それは鮨の立ち食ひの時に板におくと、もう味が落つてしまうなんて云ふのと同じ事ぢやありますまいか。

第一、割つたのでは汚らしくて見た目が悪く、それよりもやつぱり普通に櫛型に切つたものが一番たべよいのでせう。
その西瓜の眞の味をたべないでもいいのなら、二つに切つて氷ご砂糖をまぜたり、洋酒を落としたりするさまざまな食べ方もまたいいかも知れません。

よく、こんなスイカがうまいのかつてきかれますが、これは難づかしい問ひです。
その道の人はカンで、うまいのを富てるやうですが、必らずそれが正解とは云へず、外見のみで識別する事は玄人でもおそらく困難なのではないでせうか。
ですからスイカのうまいのは、いい籤を引き当てたやうな氣がします。

利休が人に招かれて砂糖をかけた西瓜が出たとき、利休は砂糖のかけてないところだけをたべたさうです。
うまい西瓜なら砂糖をかけないでも程よい甘味をもつてゐる筈です。
ただあの種子、あれだけはうるさくて、ことに西瓜の出る季節が暑い眞夏だけに少し氣短な者はいらいらさせられますが、しかし、枇杷のやうに次第に種子がなくなつてくれるのぢやないかと思はれます。
紅い果肉に黒い種子がごろごろとしてゐるところに切つたスイカの美しさがあると今は負け惜しみを云つておきませう。

 御後へ紡いでまいります・・・

※  原文のままの文字使いを使用しています。