新大臣となられた諸夫人たちが、あらたまった喜びのお顔で、お礼言上にこられました。…
応接間、お座敷、夫人の居間と祝客を振分けまして、新首相夫人がそれらの室を順よくまわられる間の、つなぎの接待を致しました。次ぎから次ぎと、出さねばなりません茶菓子の用意を指図するために、台所とそれらの室々との間を、往復するのに忙しく動きました。
祝客が多いために、台所はその接待の茶菓の用意で、見知らぬ四,五人の婦人が働いてゐました。
調子よく茶菓がはこばれてきませんと、台所へゆき、「お居間の方へお茶、いそいで下さい」と、私はツイ大きな声を出しましたら、「お春さん、あの奥様はどういふ方なの、手がのろくて、イライラするわ」。
「あの奥様は前の××県知事の××様です。今度またどこかの県に復活なさりたいんでございましょう」。
お春さんは小声で云いますと、いそいで納戸の方へ行ってしまいました。
政友会の天下になれば、政友系の人々が、役職に復活すると云います。
知事と云えば、一国一城の偉方と思っていました私は、「すまじきものは宮仕え」といふ言葉をかみしめました。
新首相ご夫妻と共に祝膳にもつきました。そして夜まで祝客の応接に多忙でした。後日、お祝いのさわぎがおさまりましてから、千代子夫人ご自身が指図なさいまして、清酒は出入りの酒屋に、洋酒類は明治屋に、鰹節は「にんべん」に貫目をはからせて引き取ってもらいました。
紅白のブドウ酒はダース五十円でありましたとか。紅白のリボンをさげてアケビの篭に入ったブトウ酒が、沢山地下におさめられましたのは羨ましい事でした。
御後へ紡いでまいります・・・
※ 原文のままの文字使いを使用しています。
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