本堂には総理大臣としての大礼服犬養毅先生の大きなお写真が飾られ供花が左右に沢山飾られてをりました。
 左右僧侶は、緋色の今朝を揃えて導師を内に散華しつつ天台宗の経文を唱和しながら、ゆっくりとまわられました。
自由等総裁吉田茂氏につづいて、鳩山一郎氏が供華されました。
 安藤、内田の両氏は、衆議院の本会議で国警法案が採決になるといふことで、控室から辞去されてをり、参議院議員の人々がをりました。
 遺影の前に三人づつ列んで焼香を済ませました
健氏は低い聞き取れにくい声であいさつをされました。
控室は戻らず、玄関脇で小さな折箱をうけ取りましたとき、
「塩原さま」と声をかけたのは、石巻から状況したお浅さんでした。
 五・一五事件のとき官邸に居ました女中のお春さんとお浅さんが、喪服姿でなつかしそうに私のそばにきました。
「さすが犬養家の女中達は、しっかり者ばかりだ」と、軍法会議に参考人として呼ばれたとき、おテルお春お浅の
三人とも立派な態度であったと噂に上がった人たちでした。

御後へ紡いでまいります・・・

※ 原文のままの文字使いを使用しています。

やまとなでしこ