十年四月十一日、母と共に熱海の犬養別荘にゆき一泊いたしました。
十一年二月十七日、熱海の犬養別荘にゆきまして、ゆっくりと一週間未亡人と共に生活いたしました。寝室も、入浴も、散歩も食事も一緒で、爺やさんがつき添ったり、たまには仲働のお春さんと三人で熱海ギンザにゆき、買物をしました。

時折、夫人たちが日帰りで、二人三人と御きげん伺いにきてくれます。
泊って下さる方がないのが未亡人にはお淋しいらしく、夫人たちは、とても泊ってまではつとまらない、貴方はよく一週間もと、あきれてをられました。

私は日頃から、躾のやかましい母と生活してをりますから、犬養未亡人のおそばにをりましても、けっして窮屈ではありませんでした。

二十五日まで滞在して、夕方帰京しました。はからずも夜には雪となり、二・二六事件の朝を迎へました。
三月二十四日、未亡人は熱海より三ヶ月ぶりで帰京され、健氏御夫婦と学習院初等科一年生の康彦君と共に東京駅に出迎へました。

御後へ紡いでまいります・・・

※ 原文のままの文字使いを使用しています。