お若い頃から甘いものがお好きで、とりわけ和菓子が好物でした。昔のことですが、逓信大臣の三土忠造夫人を私邸に訪問しましたとき、応接室で三土夫人をお待ちする間に和菓子と果物が出されました。

「よろしかったら、このお菓子をどうぞ」と云ひますと、薫夫人はニッコリされて、「では私の果物もどうぞ」とご自分の前の果物皿を私の方へよこされました。そこで薫夫人はお菓子を二人分、私は果物を二人分、いそいで戴きました。そして互に皿を元に戻しました。急におかしくなって、笑ひを押えるのに困ったことでした。

その頃、清和会の役員会は首相官邸の犬養夫人のお室でした。虎屋の和菓子の大きいのを薫夫人は、三人分ぐらいは平気で召し上がりました。

昭和七年頃でしたか、祝辞をのべられました。マイクのない時代、会場が広いせいか、中ほどの席に居た私の身にはさっぱり聞こえないのです。

「文相夫人としてこれからも、今日のような御挨拶をなさることが度々あると思います。もっと声のだしかたを練習なさるためにも、謡をおはじめになっては」と、その帰途私は薫夫人に申しました。

  御後へ紡いでまいります・・・

 やまとなでしこ